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Towards a Competition Enabling Framework in Asia Pacific: Opportunities & Challenges – Japan Chapter (Translation)

 |  January 7, 2021

Below, we have provided the full, Japanese transcript of the panel discussion, Online Advertising, Market Competition, Data and Transparency: Opportunities & Challenges for the Ads Ecosystem in Japan, from the third chapter of our series, Towards a Competition Enabling Framework in Asia Pacific: Opportunities & Challenges.

Daniel SOKOL Speaker

ダニエル・ソコル:

フロリダ大学で教授を務めるダニエル・ソコルです。本日は、CPIの日本支部のモデレーターとして、日本におけるオンライン広告市場の競争、データと透明性の機会と広告エコシステムの課題について専門家のご意見に耳を傾けます。本日は、これらの問題の最前線で活躍されている実務家や学者の方々にお集まりいただきました。東京都立大学教授 伊永大輔氏と、在日米国商工会議所競争政策委員会委員であり、ホワイトアンドケース法律事務所の弁護士の大軒敬子氏、ロンドンのキングスカレッジ法学部教授のレナート・ナッツィーニ氏、そして慶應義塾大学経済学部准教授でCPRC客員研究員、UTokyo経済コンサルティングのチーフエコノミストを務める久保研介氏の4人での皆様です。冒頭のコメントから始め、その後、質疑応答を行います。では、まず、デジタル広告の経済学について説明してください。

Kensuke KUBO Speaker

久保研介:

ダニー、紹介ありがとうございます。特に日本という観点から考えると、垂直統合と間接的なネットワーク効果という非常に重要な2つの問題があるということから始めたいと思います。まず垂直統合についてですが、従来の広告業界を振り返ってみると、広告代理店が広告主をパブリッシャーに直接つなぐという意味で、垂直統合されていたと思います。そして今日、Googleがデジタル広告で垂直統合するという場合、Googleが広告主とパブリッシャーを直接結びつけているということです。つまり、直接のつながりが実現したという意味では、私たちは振り出しに戻ったようなものです。しかしなぜそんなに時間がかかったのかというのが問題です。それは、この業界が元来、実に細分化されていたからで、従来の広告代理店は、デジタル広告ビジネスを取り扱う能力を備えていなかったのです。

そこで、そのバリューチェーンの中で様々な機能を提供するこのような新規事業が誕生し、Googleもその一つでした。中でもGoogleとFacebookは、買収だけでなく、有機的な成長によって、市場の2つの異なる側面を結びつけることに成功したわけです。有機的な成長は、実際に多くの新技術やイノベーションも生み出しました。もちろん、このプロセスを通じて様々な効率も向上しました。垂直統合が一般的に効率の向上につながることは周知の事実といっても過言ではないでしょう。最もよく知られているのは、ダブルマージンの排除です。他にも、投資の円滑化、情報共有の改善などの効果があります。では、なぜ垂直統合がそれほど重要なのか、それは、フォークロージャー(差押さえ)効果、すなわち顧客フォークロージャー効果とインプットのフォークロージャー効果があるからです。

デジタル広告については、おそらく今回も議論になると思いますが、日本ではある種の問題が指摘されています。その一つが、デジタルプラットフォームが自動選択するといわれる自分の好み、ユーザーの嗜好というものです。その実践については、日本でもいくつかの異なる形態が議論されていますが、自分の好みによる選択が実際に行われているかどうかは、未解決の問題だと思います。また、垂直統合された企業が享受する一定のメリットがあるのかどうか、またその理由が効率によるものなのか、それとも反競争的と主張される行為によるものなのか、というのはまた別の疑問として存在します。

もう一つ別の経済的な問題、つまり間接的なネットワーク効果の問題に移りたいと思います。これは垂直統合と密接に関連しており、市場の2つのプレーヤー、つまり広告主とパブリッシャーが、Googleのようなデジタルプラットフォームを通じてつながっているために、間接的なネットワーク効果が発生するのです。

このように、2つの異なるプレーヤーが1つのプラットフォームを通じて接続されることで、間接的なネットワーク効果が発生し、このようなネットワーク効果で最も重要なことは、様々な効率を向上させることだと思います。実際、英国の合併評価ガイドラインを見てみると、他のすべての点で同等であるならば、間接的なネットワーク効果は、消費者の福祉の向上につながると明示的に述べています。つまり、価格が同じであれば、ネットワーク効果がない場合と比較して、ネットワーク効果があった方が消費者にメリットがあるということです。だからといってネットワーク効果は、おそらく主として競争を促進する効果があると考えられるため、ネットワーク効果が反競争的な影響を与えるとみなすのは間違いです。しかし、同時に、同じ英国の合併ガイドラインでは、ネットワーク効果は、例えば、事業者が1つしかない市場では、ネットワーク効果のためにその事業者が市場を支配するよう転換する効果をもたらす可能性があるとしています。

また、一つの事業者がある一定の規模に達すると、市場への新規参入が難しくなります。また、間接的なネットワーク効果がある場合の特定の価格設定の特殊性の問題も発生します。例えば、日本のアドテック会社の中には、Googleのアドサーバーが実際にはパブリッシャーに無料で提供されていて、それがGoogleに不当な競争優位性を与えているのではないかという指摘もあります。しかし、Googleが間接的なネットワーク効果を享受する垂直統合型企業であることを考慮すると、例えば多くのパブリッシャーを集め、その結果グーグル・プラットフォームが広告主にとってより魅力的となることから、市場の片方に無料でサービスを提供することに経済的なメリットがあることが納得できます。このように、多くの問題は、従来の経済学で説明することができるものの、さらに難しい問題も出てきます。

その一つが公平な報酬の問題で、これは日本特有の問題というのではなく、むしろオーストラリアやヨーロッパの国々ではもっと深刻な問題だと思われます。ニュースを配信する日本のパブリッシャーの中には、競争の激しい公平な市場で期待される広告収入に比べて、広告収入のシェアが低すぎると主張している企業があります。広告収入の30%以下がパブリッシャーに支払われているというような数字がいくつか出回っていますが、それが正確な数字かは誰も明確に把握していません。しかし、オーストラリアなどの地域とは異なり、問題は一般的な広告収入ではなく、ニュースを配信するパブリッシャーに直接帰属する広告収入をどのように分配するかということだと思います。そこで問題となるのは、何が公平かを誰が決めるのかということで、 さらに競争法に基づいた救済措置があるかどうかも問題となります。 例えば、デジタルプラットフォームに各広告の広告主からの収益を開示することを義務付けることにより、パブリッシャーが現在よりも多くの情報を持ってデジタルプラットフォームとの交渉に入ることができるようにするという議論があります。しかし、それにより交渉の行方にどのような影響を与えるのか、あるいは競争環境にどのような影響を与えるのかは定かではありません。ということで経済学的な観点から、この3点を議論したいと思いました。

ソコル:

とても参考になりました。今、経済学の話をしたので、次に大輔さん、デジタル広告に対する競争法の現況を、ご説明いただけますか。

Daisuke KORENAGA Speaker

伊永大輔:

ありがとうございます。日本語で話してもいいですか。

ソコル:

はい。

伊永:

私の方からはデジタル広告の取り扱いについて日本で新たに法律が制定されましたので、その法律の制定背景と概要についてまずお話したいと思います。2020年5月27日に可決成立したデジタルプラットフォーム取引透明化法といわれるもので、施行が2021年春に予定されています。この法律ですが、デジタルプラットフォームに対する規制の基本的示唆としては競争と技術革新の維持促進という所は変わらないものです。厳格な自己規制を基本とすべきで、包括的で介入的な事前規制は過剰規制の問題が大きくて適切ではない、という考えの下に策定されたもので、そういう意味では独占禁止法、競争法の積極運用を規制の中心に据えながら、そこでは補えないものを法律で補助していくというものとなります。

独禁法の運用の難しさは3点ありまして、ご承知のとおり独禁法の運用は厳格な司法審査の対象となるもので、詳細な事実認定や証拠収集が必要となるなど、簡単ではありません。

一つ目の問題は市場確定が難しいということ。技術革新をきっかけとして従来は別々の市場を構成した商品が、一つの商品市場を構成するようになるというのがままおきます。例えばスマートフォンもそうですが、iPhoneができてからまだ10年ちょっとしかたっていないわけですが、すでにパソコン市場に日本では影響を及ぼしている、パソコンとスマートフォンが市場として重なり始めていると言えるわけです。二つ目ですが、競争評価が難しい点があげられます。デジタルプラットフォームの行為というのは、競争制限的な面もありますが、競争促進的な側面も常にあります。この両者の効果を厳密に審査して競争への影響を評価するには、様々な事実関係の検証という、時間がかかる上に、評価には関連分野の専門知識が必要とり、大変難しい問題を提起しています。

3つ目は、調査期間が長期化するという問題です。日本の競争当局、公正取引委員会の法執行は先進国の中でも比較的スピーディーと言われていますが、それでも事件審査には長時間を要しています。そうすると競争者が十分な競争力を保っていられる間に有効な法的措置が取れないということもありますし、競争制限による被害も拡大してしまう。需要者・消費者にとってマイナスもある、是正されないことになる。ここでこの取引透明化法ができたたわけです。取引透明化法が定めるにあたって、3つの視点から過剰規制とならないようにしたほうがいいだろう、ということで、競争を補完して、競争的な市場環境の構築に有益である範囲において作られました。

この3つの視点を見てみると、一つ目は独占禁止法を未然に防ぐ効果、牽制効果が期待できるもの、例えば取引拒絶の理由開示義務になります。それからMFN条項、最恵国待遇条項の理由を開示するとか、こういったものが独占禁止法を未然に防ぐ効果が期待されるものになります。

2つめは取引情報を透明化させて、ユーザーの合理的な選択を促す効果が期待できるものになります。例えば契約条項、取引条件の明確化、開示義務を課すものです。

3点目は、ユーザーのスイッチングコストを下げる効果が期待できるもの。例えば個別の購入データの共有の促進が考えられます。こういった3つの視点に絞って事前規制を行う。これを超えてアルゴリズムを公開するであるとか、ビッグデータの強制共有化などは、競争への影響や実効性において問題があるということから、これについては定めていません。

EUとの比較も重要だと思います。EUもオンライン規制が今年の7月に施行されましたが、これとパラレルに考えることのできる規制だと思います。EU との違いとして重要なのは、EUがすべてのオンライン仲介サービス、オンライン検索エンジンに適用されることに対して、日本の取引透明化法はかなり限定しています。今のところ大規模なオンラインモール、それからアプリストアに限定して適応されるということで、5社程度が想定されています。

開示義務やCode of Conductを定めるであるとか、紛争処理手続きを定めるであるとかは、似たような手続きをEUと日本はパラレルな手続きを用意していることになりますが、もう一つ違いとして重要なのがモニタリングレビューのシステムになります。モニタリングレビューというのは、規制の対象事業者に自己評価をしてもらい、その自己評価に基づいて報告書を提出してもらい、その報告書を経済産業大臣が一定の評価基準から評価して、公開するというものです。その公開にあたっては、もちろん一方的に行うのではなく、共同規制という形で、互いに協議しながら説明を受けながら評価をしていく。この評価の中でいろいろな改善点や技術的側面などを考慮しながら、高い評価になったり、低い評価になったりする。低い評価の所は、パブリックプレッシャーがかかることになりますし、高い評価の所は、そのような先進的な取り組みをどんどん促進してもらいたいということで、他のデジタルプラットフォーマーに対しても働きかけを行っていくということを考えていると思います。今のところデジタル広告はこの対象とはなっておりませんが、今現在内閣官房の方でこれが検討されているところです。私もかかわっていますが、そこで検討されており、もう少し長い目で見ると、この法律を含めていろいろな選択肢があるわけですが、規制の対象については今検討の最中で、競争法、独禁法だけでなく、新たな規制の枠組みを策定したり、取引透明化法を改正あるいは改法令として取引に対応することを今検討しているところです。私からは以上です。

ソコル:

ありがとうございます。

次は、大軒さんに質問します。競争法に関連するデジタル広告について、大軒さんは、どのようにクライアントにカウンセル(助言)しますか。

Takako ONOKI Speaker

大軒敬子:

ありがとうございます。

今ダニーから弁護士の立場としてクライアントに対しどのようにカウンセルするかという質問が出されましたが、かなり難しい問題なので私からは別の角度からお話します。現在世界においてデジタルプラットフォームをめぐる取引環境については、何らかのルールを設ける必要があるのではないかという議論が行われて。その一環として日本でもデジタルプラットフォームに関する実態調査が行われています。 具体的には公正取引委員会が今年の4月28日、デジタル広告の取引実態に関する中間報告を発表しました。また内閣官房に設置されていたデジタル市場競争本部が今年6月16日にデジタル広告市場の競争評価中間報告を発表しました。デジタル市場競争本部によると、「今年冬までに最終報告書の発表を目指す」としていますが、すでに12月になっていて寒いですね。桜が開く春までには最終報告書が公表されるのではないでしょうか。 おそらく公正取引委員会も同じタイミングで最終報告を出すようです。

このような動きがある中で、ダニーの質問に戻りますが、事業者の立場としてはどのようなことに気を付ければよいか、ということですが、なかなか簡単には答えられない質問です。このようにいろいろな状況が動いておりますので、デジタル広告に関する実態調査など、日本や世界の規制の動向を認識することが役に立つと思います。ただ世界中で日々様々な議論がなされている中、それすべてを把握することは現実ではないので、関連する議論の行方だけでも把握することは役に立つのではないでしょうか。ところで、私は在日米国商工会議所(ACCJ)の競争政策委員会のメンバーとして、競争法や競争政策に関する事業者の意見に接したり、例えば公正取引委員会に提出するパブリックコメントをまとめる立場にもあります。その中で経験したことをいくつかご紹介したいと思います。

よくある意見では、競争法に関することで競争はもちろん重要なことではあるが、それ同時にイノベーションを阻害するような競争政策であってはならない、という意見はたびたび出ます。イノベーションと競争、そのどちらも重要なことであるというのは、日本の公正取引委員会を含め、世界の競争当局も同じ理解であると考えています。日本の公正取引委員会などが適切な競争政策をとるように、また適切な執行を行うように、現時点で事業者として何ができるかと考えたとき、例えばACCJのような事業者団体、また他にもACCJのような事業者団体があると思いますが、このような事業者団体などを通じて情報発信をすることが意味のあることだと思います。例えば、ACCJはデジタル市場競争本部のデジタル広告市場の競争評価中間報告についてパブリックコメントを提出して、それをACCJのウェブサイトにも公表しています。

 ACCJが提出した様々な意見の中には、業界での取り組みや自主規制を尊重すべきだというものがあります。デジタル広告を含むデジタルプラットフォームを取り巻く環境が目まぐるしく変化するため、先ほど是永先生がおっしゃったように、競争当局が違反行為を認定して、執行するとなると、その変化についていけなくなってしまう、結局は執行の効果があまりなくなってしまうリスクがあるからです。現在の状況を見ていると、先ほど是永先生が述べておられたように一定程度は自主規制が尊重される方向に進んでいるとみています。そうであるのであれば、事業者としては事業者団体などを通じて一歩先に進んで、イノベーションと競争を促進できるようなような自主規制を定めていくことも視野に入れていくということがよいのではないかと思います。

ちょっと別の観点になりますが、昨年の12月17日に公正取引委員会は 「デジタルプラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」というガイドラインを公表しました。非常に長い正式名称ですが、要するに優越的地位の濫用をデジタルプラットフォームと消費者との取引に適用する際のガイドラインです。これについてもパブリックコメントを提供する機会があり、ACCJからいろいろな意見を取りまとめた意見を提出しました。その際に出た意見としては、個人情報保護法の規制の関係との意見がでました。個人情報保護法との関係で言いますと、デジタルプラットフォーム事業者が個人情報保護法を遵守しているにもかかわらず、優越的地位の濫用になりうるのかどうか、もし優越的地位の濫用になりうるなら、どのような場合か、という意見がでました。すでに個人情報保護法という法律がある上にこの優越的地位の濫用に関するガイドラインができたということは、デジタルプラットフォーム事業者が個人情報保護法をきちんと遵守していたとしても優越的地位の濫用になりうると解釈するのが論理的ですし、実際に公正取引委員会のパブリックコメントに対する回答でもデジタルプラットフォーム事業者が個人情報保護法を遵守していたとしても優越的地位の濫用になりうると回答しています。ではどのような場合なのか、という点について公正取引委員会も一定の回答を示していますが、具体的には、事業者としても追加的に何をしたらいいのか具体的なイメージがわかない状況です。そのような状況の中で事業者のできることは、一般的に優越的地位の濫用に抵触しないように気を付けるとともに、とりわけ個人情報保護法を遵守するよう注意することだと思います。

私からの冒頭のコメントは以上です。

ダニーさん、ありがとうございます。

ソコル:

敬子さん、ありがとうございます。

比較の観点からヨーロッパでの経験に基づいてデジタル広告の分野で日本がこれから向かう方向について何か学ぶ点があるかレナートにお聞きします。

Renato NAZZINI Speaker

レナート・ナジーニ:

ダン、ありがとうございます。私は、ヨーロッパの視点を、欧州連合(EU)、EU加盟国と最近独立した英国を含めて捉えています。まずはEUを離脱した英国から始めます。もちろん,英国やEU加盟国では,このような市場の分析や研究がかなり行われています。ご存じのとおり、英国競争・市場庁(CMA)は、2020年7月にデジタル広告に関する主要な報告書を発表しましたが、私はそれが非常に興味深い調査結果を含むもので、これまでのCMAの報告書と同様に非常に綿密な報告書だと思います。しかし、私は様々方向に導く調査結果を含むものとして、この報告書を読みました。もちろん、このような市場での弊害と市場の支配力を示す証拠も一部あるのも事実ですが、最終的にはGoogleの請求する仲介手数料は、他の広告代理店の手数料の範囲内であるという興味深い調査結果もあり、もちろん他の広告代理店といえば、広告仲介業に曲がりなりにも顕著な市場の支配力の欠如を強く示唆するものだろうと思います。

CMAの報告書の中で非常に思い切った手厳しい結論と提言されていることに私は、驚きを隠せないのですが、その一方報告書の分析の厳密さの点ではCMAへの期待を裏切らないものだと思います。その結論は、規制部門が強制的に行動規範を運用する方向に向かっています。この規制部門は、CMA の組織内にあるデジタル市場部門の一部として非常に強い権力をもつものになることが分かっていますが、現在策定中で、市場における公平性と透明性の義務を含むとされる行動規範の取り締まりを行うだけでなく、構造的な分離や、所有権の分離までも義務づけると予想されます。つまり、このような市場に害を与えると受け取られるのを避けるためには、子会社の売却が必要になります。私としては、様々な結論を導く証拠が混ざっているにもかかわらず、非常に極端な結論に至ったと思うのですが、私はデジタル広告業界には市場の支配力が全くなく、問題がゼロだと言いきれるわけではありません。

いくらか問題があるかもしれませんし、総体的に競争当局は、問題に対処するための手段を持っていると思います。おそらく、当局は、経済学者や弁護士だけでなく、優れたデジタル市場の専門家やエンジニアを擁する必要があります。しかし、私は、有害であるという証拠があるのなら、現在の競争を守る手段により、今起こっている害のほとんどに対処することができると思います。それにしても、このような結論に至るとは確かに驚きました。欧州連合でも、多くの加盟国がデジタル広告について調査を行っており、欧州委員会で現在多くの法案が協議または提案の段階にあり、今後何等かの形で法制化されることが予想され、それによってデジタル市場全体とデジタル広告の分野に影響が及ぶことになるでしょう。例えば、欧州委員会がデジタルサービス法とデジタル市場法について協議を行ったことをご存知の方も多いでしょう。実質的にデジタルプラットフォームの規制を含むことを意図した一括法案で、これもまた、公平性、公平な競争の場、機会の平等性の確保の原則に基づいています。

この法律の具体的な内容はまだ不明確で、非常に曖昧です。繰り返しになりますが、私は、様々な結論を導く証拠が混ざっているという事実があるので、驚いています。英国では、CMAは少なくとも欧州連合(EU)の機関よりも証拠の収集と協議の点でより良い仕事をしてきたと思います。それでも、かなり介入的な規制の可能性があると予想されますので,今後の行方を見守ることになります。先ほども申し上げたように、私は、様々な結論を導く証拠が混ざっており、弊害の大部分は既存の法律で対処できると考えます。また,欧州委員会は,新しいツールと呼ばれる市場調査手段についても協議を行っています。これは基本的には市場調査であり、その結果、現在とは異なり、欧州委員会が構造的な救済措置に関する行動を課すことができるようになります。

そのうちの一つの選択肢は、経済のすべての分野に適用される一般的な法律文書を持つことですが、その原動力となっているのは明らかにデジタル経済であり、政治的な意図と決意があることは明確です。私たちは、デジタル市場でその法律の運用を待つことになるでしょう。また、委員会には、行動上の救済措置だけでなく、所有権の分離などの構造的な救済措置を課す権限が与えられるでしょう。

また、データ共有の促進を目的とする「EUデータガバナンス法」などの法案もあります。これについては、後でお話することになると思います。それでは欧州から学ぶことができる教訓は何でしょうか。まず、Hard Law(強制力を持つ法律)という観点からは何も実現していないわけですから、何も教訓を得るべきではない、英国と欧州連合の動向を見守り,この法律がどのようなものか,どのような影響を与えるかを見極めたいという人もいるでしょう。第二に、別の教訓として考えられるのは、デジタル環境、デジタル市場における欧州の経済実績を見てみると、実際にはあまり良くないということです。

すべての主要なプラットフォームは、もちろん、非常に優れた検索エンジンのチェックがありますし、ヨーロッパのプラットフォームもありますが、これらの市場の非常に大手の検索エンジンは、米国のものか、一部、極東のものもあり、確かにヨーロッパのものではありません。時々言われますが、欧州連合や欧州委員会は常に米国のプラットフォームの支配力の乱用などを調査や捜査を行っていますが、別に米国を目の敵にしているわけではなく、残念なことに捜査の対象となるEUのプラットフォームがないことが実情です。つまり、ヨーロッパの国々の企業にとって、ネット検索があまり得意分野はではないということです。だから、EUのとるいかなる解決策についても、それを採用・導入する前に熟慮する必要があります。EUは、プラットフォームに対して明らかにあまり有利な環境とは言えないからです。

また、欧州連合は、オンライン広告に関して、今後Google検索、AdSenseのような訴訟に関わりたくないと思っていることも教訓とすべきです。これは、競争法とウェブサイトのとの関係で仲介サービスに関してGoogleが実行した、あるいは実行した疑いのある一定の契約上の制限およびより婉曲的な間接・排他的制限に対して欧州委員会が問題視し、訴訟を起こしたことについて私は、この種の問題に非常にうまく対処したと思います。もちろん、広告に関してマルチホーミングを防ぐ排他性や相互運用性などの取り決めがあるかどうかといった、事実と証拠を常に確認する必要がありますが、原則としては、むろんそれが競争を制限する可能性があります。欧州委員会の執行記録によると,競争法はこのような問題に非常にうまく対処することが可能ですし,そのために競争法がこれまで活用されてきました。

最後に指摘したいことは,デジタル広告についてのヨーロッパにおける記録は,私が述べたとおりですが、1つか2つの判例を除いて実例があまりないのが実情です。GoogleのAndroidはもちろん、Google検索やGoogle Chromeと大量のアプリ製品をもつGoogle Playストアを介してAndroidにバンドルする事例でした。しかし、同時にそれは、デジタル広告市場で起こっている弊害に関するものでもありました。それでもこのような判例と上告はもちろん、まだ議論の余地があります。私は、Google検索の仲介サービスの排他性を争う訴訟に着手されたとみていますが、別の観点からいうと既存の競争法を使った取り締まりの可能性だけでなく、4点目として、世界的な規制の分断化のリスクに対して十分な注意を払うべきだということになると思います。

一般的なデータ保護規制は、ヨーロッパで事業を展開している世界中の多くの企業が、実際にデジタル市場に参入し、競争に参加し、行動する上でコンプライアンスコストの増加や、複雑さの増大を招いていることがわかります。それは一般的なデータ保護規制それ自体が様々な方法で競争の障害となるからです。個人データは保護されなければならないことは確かですが、保護規制が100%悪いと言っているわけではありません。デジタル市場はグローバルで、すべての大陸と司法管轄を超えてかつてないレベルで規模の経済を達成し、多くの恩恵をもたらします。もし世界中のすべての法域が全般的に、自分自身を基準にしたり、確かな証拠によるものでなくむしろ、政治的な認識や政治的な意志に基づいてヨーロッパの経験を検討し、多かれ少なかれ厳重な罰則を課すようなデジタル空間の規制を始めたら、最終的に被害を被るのは、その司法管轄区で質の低いサービスを受けることになる消費者だと思います。

そして実際には広告主やパブリッシャーも同様に、到達する消費者の数が少なくなり、最終的には提供するサービスレベルも低下します。そのため私の最後のポイントとして、より多くの国々の間の、もっと国際的なアプローチを推奨します。これが難しいこととは承知していますが、他の地域では既に実施されています。例えば、アジア太平洋経済協力会議(APEC)のグループは、データ保護の分野で、プライバシー保護のために優れた多国間の枠組みを提唱し、2,019年にメキシコとカナダと米国の合意の中で認識されました。これはほんの一例に過ぎないものの、市場で活躍する企業自身がとった多国間の行動が政府や機関組織に支持され、実現することを示す好例です。そして、この分野の問題を解決する上で、よりよい解決策になる可能性があると思います。

ソコル:

ありがとうございます。これでパネリストの皆さんからオープニングのコメントをいただきましたので、これを今回の話し合いの枠組みとして進めていきます。次は日本の競争政策制度における制度的な変更、つまりデジタル本部の設立や近年の公正取引委員会のデジタル広告に対するアプローチの変化に注目すると、これが実践面にどのような意義を持つのかお聞きしたいと思います。おそらく伊永さんは、公の場で話すことができることと、少し慎重に話さなければならないことの両面で、独自の知識をお持ちでしょう。では、まず伊永さんからお聞きしますが、その後他のパネリストにも伺うことにします。

伊永:

デジタル市場競争本部ができたのは、経済産業省と総務省それと公正取引委員会、つまり競争当局、その3者が必要性を認めたからです。その必要性というのは省庁を横断で、全省庁的にデジタルプラットフォームに対する規制を考えなければならないと考えていたものの、一方で政策的なブレーンを集めて一定の方針を出しますが、実際に動くのは各省庁で動くという形になっていて、デジタル市場競争本部ができたからといって公正取引委員会が手足を縛られたかというと、そうではなく、これまでどおり自由に事件を執行できるというものです。

一方で先ほど私の方から説明した取引透明化法の話ですが、実際には、取引透明法の運用についても、公正取引委員会は重要な役割を果たすことが期待されており、取引透明化法自体は、大軒先生の方からありましたが、自主規制であるとか、共同規制と呼ばれるものを中心に規制の体系を組んでおりますが、互いにいろいろな事情を考えながら共同して行うというわけですが、一方で事業者側が協力するインセンティブというものを考えた時に、やりすぎると独占禁止法違反となってしまうという、規制の影がなければ実効性を持たないという点が指摘されています。そういう意味でデジタル広告においても最終的には、独占禁止法、競争法の違反という可能性があるときに、その前段階での、自主規制が効くという形になるので、(競争)本部はその部分について前哨的に対応することができるというわけです。どの官庁がどのような役割を果たしたら一番うまくいくかを考えながら、手足に仕事をふるという役割になっているので、手足を縛らないようにしながら、慎重に規制を考えてくという役割を担っていると思います。

ソコル:

ありがとうございます。

このような制度的変更の現実をクライアントに助言する際に大軒さんも考慮する必要がありますね。何か付け加えることはありますか?

大軒:

伊永教授が詳しく説明なされたので、私はほとんど何も付け加えることはありません。ただ、一つ付け加えさせていただくと、私の理解では、イノベーションと競争という目的でデジタル市場競争本部と公正取引委員会が協力しており、公正取引委員会はもちろん独禁法、つまり競争法の観点に焦点を据えています。そして、両者がやっていることは、時々、あるいはほとんどが重複することもありますが、競合していることもあります。そして、クライアントの視点から言うと、より効果的な、あるいは良好な競争政策を実現するためには、政府機関が競合することが重要です。それが私の見解です。

ソコル:

レナート、 制度の構造についてのコメントがいくつか出されましたが、制度が発展してきた経緯を振り返る機会になると思います。何か付け加えることはありますか。

レナートの画面がフリーズしているように見えます、その代わりにケン、お願いできますか。

ナジーニ:

私は、聞こえます。

ソコル:

回復しましたね、よかったです。質問を繰り返します。あなたは多くの政府機関の変化を見ておられるので、見識が深いと思います。デジタル広告の分野で価値創造をより良く支援するために、日本はどのように制度設計を考えるべきかということに関して、何か付け加えることはありますか。

ナジーニ:

そうですね、私の経験では、制度設計、特に今、デジタル経済への対応となると、ヨーロッパでは、大きな政治問題となっている気がします。問題は、デジタル経済への対応をすべきか否かということです。もちろん、私はすべて政治を抜きにして考えるべきと説くわけではなく、実はその反対で、政治こそがある意味で私たちを統治管理するウェートが高いわけですから。

しかし、根本的な疑問としては、それがデジタル広告の問題に対処し、デジタル経済における競争の問題を探るとなると、私たちが慣れ親しんでいる感覚やアプローチだと思いますが、私たちは、いわゆるサイエンスに従うべきなのか、つまり実際のエビデンスに従うべきなのか、それともこれは、政治的な問題なのか、ということです。そして人々の認識が正しいのか、あるいいは間違っているのか、私たちにはわかりません。確かにヨーロッパでは、今、ビッグテックは悪であるという、政治的風潮があります。

これはある程度、非合理的で、エビデンスに基づいたものではないと思います。パンデミックの影響を考慮しても、誰にとってもデジタルサービスと無料のサービス、特にオンライン広告で資金提供されている無料のサービスの重要性を目の当たりにしています。そのため、いかなる制度設計であっても、政治と経済、そして技術的な専門知識のバランスを正しくとる必要があると思います。

日本について多くコメントすることはできませんが、これは絶対に重要な点だと思います。本部が内閣官房にあり、それとは独立した公正取引委員会があるということは、私には重要なことだと思われます。

では、問題点の特定とエビデンスの分析という点で、両者のバランスをどのようにしてとるべきなのでしょうか。また、制度的なバランスに対処するには、政治とエビデンスを切り離して考える必要があります。つまり私たちはエビデンスを見てから、政治的な選択をしなければなりません。エビデンスに基づいて決定したと見せかけて、実は政治的な判断であった、というのは許されません。

私はほとんど日本語ができないので、もちろん翻訳、それも非公式な翻訳版で読んだものですが、特にデジタル本部の事件報告を読むのは興味深いです。その報告書の中には、競争の激しい市場のエビデンスがかなり含まれています。いくつか例を挙げてみますと、日本のクリック課金の仲介価格が欧米諸国に比べて低いということです。

デジタル市場とうまく機能している市場にとってこれは、朗報です。昨今いろいろなことが言われていますが、日本は全般的な構造原価が非常に安い国です。日本に旅行したことのある人なら誰でも知っていることですが、日本は決して物価の安い国ではありません。だからこそクリック課金が低いことは、実はかなり意義深いのです。オンライン広告では、おそらくFacebookとGoogleの大手2社が市場の60%程度のシェアを占めるという、複占の構図があります。しかし、裏を返せば、それ以外の会社が市場の40%のシェアをめぐってしのぎを削っているわけです。また、報告書によると、重要性がますます高まっている主なプレーヤーとしてアマゾンが台頭しつつあると指摘されています。

私はその報告書を見て驚きました。これは制度の構造的な問題なのか、それとも他の問題なのか、ここにいる日本人のパネリストの方々のご意見を聞きたいです。英国の報告書と少し似ていますが、デジタルレポーターの報告書では、エビデンスとの間の断絶に非常に驚きました。まあ透明性をめぐる問題がいくつかある可能性を示唆しています。 広告主の苦情とパブリッシャーの苦情があり、そういった苦情をどう解釈するのか、またそれは商取引に関する問題なのか、あるいは競争に関する問題なのか、といったことです。それについて議論したり、それをさらに掘り下げたりすることもできます。しかし、健全で競争力のある市場であることを示すかなりの証拠もあります。

また、あたかも日本で介入的な規制により緊急に対応しなければならないほど重大な問題があったかのように、CMA の報告書に関連して私が形容した言葉を使うと、非常に強硬な勧告が出されています。私のコメントはここまでにしますが、実際に日本の事情に通じている方々が、それについてどう考えているのか知りたいです。

ソコル:

ケン、レナートと彼の考えや、大輔と敬子が共有していることにお答えいただけますか。また制度設計というテーマについて、何か考えがあれば教えてください。

久保:

特に6月に発表されたデジタル市場競争協議会の報告書で指摘されている経済問題について、日本にある機関の能力を分析してみましょう。日本の機関は、冒頭でも述べた垂直統合の問題にかなりの部分を割いていると思います。つまり、レナートが述べたように、一部のアドテク企業や、場合によっては一部のパブリッシャーが訴えているフォークロージャーの影響に関連していると思います。 これは不公平な扱いを受けているという苦情で、おそらく特定の事例では、インプットのフォークロージャーが起こっています。

GoogleがYouTubeのコンテンツを従来の広告チャンネルから削除したことで、YouTubeの広告インベントリを扱っているのはGoogleだけになってしまったことをアドテク企業が、懸念していた事例もあったと思います。おそらく、アドテク企業の一部にとってこれは大きな影響があったと思われます。しかし、改めて問いただすべきことは、YouTubeの広告インベントリは必須の機関(Facility)なのかどうか、ということで、言い換えれば、Googleは自らの競合他社の一部に対処する義務があるのかどうかが問題です。

これらの問題のいくつかは、従来のフォークロージャー理論の条件で考え、公正取引委員会が不公正な取引慣行や私的独占に関連した事例で用いてきた分析手法を適用することができるほど極めて伝統的なものだと思います。また、大助さんがおっしゃったように、現在のデジタル市場競争対策本部下の体制では、公取委が規制の対象とみなす事例を公正取引委員会が取り締まることを可能にするものだと思います。そうであれば、フォークロージャーの問題も同様です。

もっと難しいのは、ネットワーク効果に関連する問題だと思います。公取委はネットワーク効果を扱うことがあまり得意ではありません。昨年12月に発表された新しい合併ガイドラインでは,ネッ トワーク効果についての新しい章が設けられていますが,合併の文脈でネットワーク効果をどのように扱うのかということは明言化されていません。ここでも同様だと思います。今夜議論しているのは合併に関する文脈ではありませんが、ティッピング効果の問題と同じで、ネットワーク効果による効率への影響については、デジタル広告業界と密接な関連があります。それでも規制を正当化するには競争制限効果が圧倒的に効率に影響を与える必要がありますから、この業界をどのように規制すべきなのか、あるいは何らかの規制が必要かどうかは明確ではありません。したがって、公正取引委員会は、ネットワーク効果の効率性や競争制限効果のいずれかを評価し、規制の方法を決定する能力を十分に備えているとは言えません。

もう一つ難しい問題は、交渉に関するものです。ACCCは、グーグルやフェイスブックなどに対する交渉についてニュース配信会社が持つ懸念に対処するために、最前線に立ってきたと思います。日本でそのような規模で深刻な問題が起こるとは信じがたいのですが、同時に、最近のデジタル市場競争協議会の報告書には、広告収入のシェアが不十分であるという日本のニュース配信会社の懸念や、他のパネリストが指摘した透明性の問題についても言及されています。そのため、最初のステップとしては、おそらく透明性を高めることで、大輔さんが述べたとおりそのために新たな規制が必要かどうかは定かではありません。

しかし、冒頭で申し上げたように、透明性が何をもたらすかは明確ではありません。広告主がそれぞれの広告に対してグーグルに支払った金額を明確にすることや、ニュース発行元がグーグルから受け取る支払いにどのような影響を与えるのかは明らかではありません。そのため結果次第では、さらなる規制を求める声が上がるかもしれません。実現するかどうかはわかりませんが、仮にそうなった場合、公正取引委員会にとって極めて対処が難しい問題になることは間違いないでしょう。そして、この難題に対処できる機関が日本にあるかどうかは定かではありません。ACCCには険しい道が待ち受けていると思います。世界はオーストラリアでの今後の展開を見守っていると思いますが、日本の規制当局もオーストラリアの状況を注視しています。

ソコル:

ご意見、ありがとうございます。ネットワーク効果の話が出てきたので、他のパネリストの皆様にもネットワーク効果がどのように該当するのか、あるいは該当しない点もあるのか、例えばネットワーク効果は必ずしも効果が長続きするわけではない、といった見解をご教示いただけますか。レナートさんからお願いします。日本の広告業界におけるネットワーク効果についてのお考えをお聞かせください。

ナジーニ:

ダン、私の方からは、日本というよりも、広告業界のネットワーク効果についてもっと一般的に話してもいいですか。

ソコル:

それでも結構です。ケンがオーストラリアの件を持ち出したので、どの法域の話で構いません。

ナジーニ:

もちろん機能はそれぞれ異なりますが、ネットワーク効果という点で、市場が機能する方法はおそらく世界中で非常に似ていると思うので、市場そのものに注目してお話します。世界中でおそらくよく似ている、すなわちこのような市場にネットワーク効果があることは間違いありません。ソーシャルネットワークを利用している人が多ければ多いほど、また一般的な検索サービスを利用している人が多ければ多いほど、広告媒体は広告主やパブリッシャーにとって価値のあるものになります。そういう意味では、これは極めて明らかです。

しかし、仲介業者におけるネットワーク効果について考えると、私はそれほど関連性があると断言する自信はありません。しかし一つネットワーク効果について指摘したいことは、その効果は全般的なものであるということです。ヨーロッパやある程度他の地域でも言えることですが、ネットワーク効果を、即座に競争問題と同一視する傾向が一般的だと思います。「あ、ここにネットワーク効果があるから、何か対策を取らなければ」という感じです。ネットワーク効果というのは、市場の特徴や市場の構造の面から、特定の市場の挙動を説明するための方法にすぎないと思います。すなわちあるサービスを利用する特定のユーザーが増えれば増えるほど、そのサービスの価値が高まり、プラットフォームの向こう側にいるユーザーがその市場を見つけられるようになり、その人たちもサービスがより有用であることに気付きます。直接的なネットワーク効果と間接的なネットワーク効果についても同じです。つまり、これが多くのプラットフォームの特徴であり、オンライン広告の特徴でもあります。

しかし、それは自動的に、また必ずしも競争の問題となるか否かというのは、全く別問題です。欧州委員会自体、2件の合併の事例で、その点を指摘し、「どちらかというと、ネットワーク効果は経済現象である」と言及しました。現在第二段階の分析で例えばネットワーク効果が参入の障壁となっているかどうか、あるいは何らかの形で市場が有利に傾いて、固定化した市場の支配力が存在するかどうかといったことを検証しています。ネットワーク効果の分析は、競争上の弊害が生じているかどうかを理解する手段に過ぎないのかどうか、また特定企業が競争を妨げる能力を備え、もはや競合が不可能なほどの永続的かつ相当な市場支配力を持っているのかどうか、私たちが問いかける必要があります。

つまり、分析の中でネットワーク効果は必要なステップに過ぎないのか、あるいは市場にネットワーク効果があるかどうかを見極める必要があります。しかしそれで終わりではありません。「ネットワーク効果があるから、規制する、あるいは介入する」では済まされません。私が申し上げたいのは、このような市場では,ネットワーク効果が強調されすぎて、競争上の弊害にほとんど触れていないことが多いということです。世界中の競争法の判決や報告書を読むと、ネットワーク効果については100ページが割かれているにもかかわらず、競争の弊害については10ページほどに過ぎません。私は、この比率が約100ページ対100ページ、また50ページ対100ページ程度であるべきだと思いますが、私の見解では、注目の度合いが極めて偏っていると思います。

ソコル:

その議論を聞いて、マイクロソフトのネットワーク効果を思い出します。マイクロソフトにネットワーク効果があるのは疑いのない事実ですが、15〜20年ほど前に日本の事例があったように、今ではもう問題にはなりません。マイクロソフトを追い抜いた企業は、ネットワーク効果があるにもかかわらず、今ではその競争への影響がはるかに小さくなりました。それは、A. 予測しない他の技術が登場したこと、B.ネットワーク効果の限界が明らかになったからです。それを踏まえて、大輔さんからネットワーク効果についてご意見をいただけますか。

伊永:

ありがとうございます。

私の考えでは、ネットワーク効果自体が悪ではないということです。デジタルプラットフォームでは、ユーザーに近い下流市場が、無料で運用できる、ゼロプライス市場をつくれるというのはまさにネットワーク効果のおかげです。ネットワーク効果は二面的だけではなく、多面的な効果をもたらすことが可能で、それは範囲の経済の問題です。そのために、破壊的革新が起こりうるのだと思います。ネットワーク効果が競争評価において主軸になるというのは確かに問題かもしれませんね。ただ競争弊害に関しては、ネットワーク効果だけでは不十分で、ネットワーク効果はあくまでも競争を促進的な側面もあるということを前提に、人為的な行為がなぜ競争法違反になるのかという説明を必ず追加的にする必要があると思います。

ソコル:

敬子、ネットワーク効果に何か追加することはありますか。

大軒:

いいえ、ありません。

ソコル:

了解です。では、時間の都合上、もう1つ質問をします。デジタル広告においてプライバシーはどのような役割を果たしているのでしょうか。また、プライバシーと競争政策の間の相互作用としてどのような特徴があるのでしょうか。敬子さんのご意見をお聞かせください。

大軒:

ありがとうございます。大まかな考察をお話します。もちろん、プライバシーと競争はどちらも重要です。最近日本で議論されているのは、個人情報の保護が重要だということだということですが、冒頭でも発言しましたが、消費者は、デジタルプラットフォームに一定の個人情報を提供して、サービスを受けています。私はフェイスブックやグーグルを利用していますが、それらは私の生活の一部となっています。しかし、同時に私は、そのようなデジタルプラットフォームの利用者として、どのような個人情報を提供しているのかを意識しなければならず、それが重要なことだと思います。だから、私自身に提供するか否かの選択権があるし、私が合理的ではないと思う場合には、そのプラットフォームを利用しないと決意することができる。それは日本でも議論されていることですし、教授の方が詳しい説明をされていると思いますので、大輔さんと研介さんに譲ることにします。

ソコル:

それでは、プライバシーと競争の間の相互作用についてケンさんの考えを伺います。

久保:

この問題に関して、特に日本の競争問題を取り扱う専門家の中で私の意見は少数派だと思いますが、それも話す相手次第で、少数派とは言えないかもしれません。例えば、日本で個人情報保護法があることについて、冒頭の発言で敬子さんがおっしゃっていたことに全面的に同意します。

個人情報保護法に欠けているのは、違反した場合の行政上の課徴金ですが、これは皮肉な見方ですが、個人情報の問題を課徴金制度のある独禁法の下に置くべきであった唯一の理由ではないかと思います。つまり、集めた個人情報を悪用したくなるような企業に対しては抑止効果となるからです。

私にとっては、消費者は、事実独禁法全体を通じて交渉上の優越的地位の濫用から既に保護されているので、個人情報が消費者に対する交渉上の優越的地位の濫用とみなされるべきだというのは、つじつまが合わないと思います。例えば合併による値上げは、実質的に優越的交渉権の濫用(ASBP)と考えられます。ASBPと呼ばないだけで、基本的には優越的交渉権の濫用です。 しかし、ASBPという表現を使う必要がないので、なぜ個人情報の問題をASBPの枠組みの中に入れる必要があったのかと戸惑い、これは、また別のASBPの濫用なのか、というのがこの法令に対する私の最初の反応でした。これは、単に一人のエコノミストとしての意見であって、競争法専門家の主流の意見とは異なるのかもしれません。

例えば、企業、特に経団連が強く反対している個人情報保護法に違反した場合の行政課徴金を導入することで個人情報保護法を強化した方がはるかに良いと付け加えておきます。特定の法律は特定の目的を果たすためのものであり、一定の機能を持つAMAのような良い法律を別の目的のために使うのは間違いだと思います。 意図しない目的のために独禁法を使わないことによって、本来の機能を守るべきだと思います。以上がプライバシー/個人情報と競争法についての私の見解です。

ソコル:

大輔さん、お願いします。

伊永:

研介さんの意見に賛成です。

先ほども述べましたが、優越的交渉権の濫用(ASBP)が、なぜ日本で競争法がプライバシーを扱うことができるのかというと、搾取的濫用という武器が日本の独占禁止法には含まれているので、そこが米国との法環境とは違う点です。

他方EUの法では、ドイツの最高裁であるBGHがFacebookの搾取(exploitation)についての前向きな判決を下しました。そこでの考え方と日本の独占禁止法の考えとが違うかというと、ほとんど同じではないかと、私は思っています。これは日本のASBPを考える上でも重要なことです。市場支配的な地位にある事業者が他の選択肢を設けないでデータをすぐに使えるようにするという点が問題なわけですが、ASBPを活用するためにも他の選択肢がないことが条件となっています。そのためにはASBPが必須となります。この二つの国の法体系の中で大きな共通点があります。プライバシーをより重視して選択を取りたい事業者にとって、Facebookはユーザーの貴重なデータを失い、それにより広告主はプラットフォームを介して顧客としてのターゲットユーザーを失うことになります。競合者から見ると、一部の事業者の間接的ネットワーク効果が弱体化するので、その部分の市場についてはより激しい競争が繰り広げられことになる。その事実を前提にして競争法の中にこれが盛り込まれている、先に述べたように、顧客の選択の自由を維持するものを含めることのようですね。EUの、特にドイツの法運用につい言えば、日本に近いのではないかと思います。

ソコル:

素晴らしいです。それでは、ここで、パネリストの皆さんそれぞれに最後のコメントを伺います。日本のデジタル広告の分野では、様々なことが起こっているので、このような問題についてもっと深く考える必要に迫られているのかもしれません。ケンさんからお願いします。今後のステップは何か、またそこにどのようして到達したらいいのか教えてください。

久保:

率直なところ私が何を言っても、おそらく他のメンバーが言ったことの繰り返しになるかもしれません。特に大輔さんは、デジタル市場競争協議会のワーキンググループで既に多くの議論を重ねておられますから。

そうは言っても、国際的に注目されていると思われる問題は、広告収入の分配についてです。また、今日議論した課題の中でも最も難しいものだと思います。フォークロージャーの問題の中には、もっと簡単に救済できるものもあると思います。事実、中にはおそらく救済を必要としないものもあるでしょう。

私は、12月に発表されるデジタル市場競争協議会の新しい報告書が、ニュース配信会社と垂直統合されたデジタルプラットフォームの間の収益分配についてどのような結論を出すかを楽しみにしているとだけ申し上げておきます。また、一般の政策的な問題ではなく、個々の調査などの個別のケースについても、厳密な経済分析に基づいて判断されることを期待しています。

ネットワーク効果は取り扱いの難しい問題ですが、ネットワーク効果の文脈で正しく判断できる方法があると思います。それは経済モデルを使ってシミュレーションをすることです。真に複雑な相互作用が進行する中では、おそらくそれが科学的に判断できる唯一の方法だと思います。単純な需要予測や単なる消費者調査などだけでは、正しい判断は不可能です。特にデジタル広告業界では、非常に複雑なネットワーク効果が進行しているので、それだけでは十分ではありません。これで私の発言を終わります。ありがとうございました。

ソコル:

ありがとうございます。 レナートさんから コメントをお願いします。

ナジーニ:

これは中間報告書でもいろいろ取り上げられたものでもありますので私の方からは、プライバシーと競争の間の相互作用についてコメントさせていただきます。また、日本でもこれは議論を呼ぶ重要な問題となっていると理解しています。私は、これまでに表明された見解には同意するものの、データ保護・プライバシーと、競争・デジタルアプリの規制は、別問題であり、データ保護の問題がある場合は、プライバシー法に基づいて対処しなければなりません。しかし、EUの経験に基づいてお話すると、この2つの問題は、相互作用があり、私たちもその相互作用を認識する必要がありますので、この二つを完全に分離しておくことは現実的ではないと思います。そこで2つの分野に限ってお話したいと思います。幅広い分野ですから指摘したいことはたくさんありますが、先ほども述べたように、おそらく日本の今後に関連すると思われる2つの点を挙げたいと思います。

第一に、消費者やサービスのユーザーとしての視点から見ると、必ずしも問題というわけではありませんが、デジタル本部から出されたデジタルアプリに関する中間報告の中で、ターゲット広告や、より一般的には、消費者が受け取る広告の質や、消費者がアプリで受け取る広告のコントロールの度合いについて、一定の課題があると思います。また、消費者の視点と大きな関連のあることとして、消費者がプラットフォームに提供するデータの量がどれだけあり、次にその中で広告を通じてどの程度収益化されることができるのかということです。

ドイツの競争当局であるBundeskartellamtは優位性の濫用を理由にフェイスブックに不利な判決を下し、ドイツの最高裁でそれが支持され、判決が確定しました。ドイツの競争法の下では、フェイスブックがあまりにも多くのデータを集めすぎていたと指摘されました。今日はそれについてお話する時間はありませんが、皆さんよくご存じでしょう。フェイスブックが消費者からあまりにも多くのデータを収集しすぎていたということですが、競争という観点からその判決は間違っていたと思います。ドイツの競争法についてではなく、競争政策の観点から間違っているという意味ですが、競争政策について話す際には、このような問題を無視することはできないということを適切に示す証拠だと思います。

第二の分野として、これも中間報告に含まれているものですが、制限的効果があると思います。実際に個人情報保護法が競争制限的な影響を及ぼすことがあるので、対策を講じる必要があると思います。まず、個人情報保護法がそのような制限的な方法で起草されないように担保することです。ヨーロッパの一般的なデータ保護規制は、より良い法制化の例だと思います。そして第二に、重要な価値をもつプライバシーを尊重しながらデータ可搬性とデータ共有を確保するために、実際に対策を講じることができるかどうかということです。

さらに欧州委員会は最近データ共有の促進を目的としたEUデータガバナンス法に関する提言を発表しました。繰り返しになりますが、ヨーロッパの法制化は非常に官僚主義的で、複雑、かつ規制を重視する傾向があるので、私は常に欧州の法律には少々批判的で、警戒感を持っています。しかし、改善されれば、このイニシアチブは悪いものではないと思います。データベースの共有とデータの共有を促進し、可能であれば匿名化し、そうでなければ公益機関が利用者の同意を得る、もしも公益機関が第三者に対して非独占的にこのデータを持っている場合には、仲介者によることで、データ共有とデータ可搬性を促進する仲介者の市場を作ることができます。これらは良い取り組みだと思います。ただ、複雑になりすぎ、負担がかかりすぎ、関係者全員にとってリスクが高すぎるという理由で、最初から却下しないようにしたいものです。しかし、プライバシーと競争政策とデジタル規制の3つの分野が、今では必然的に影響しあっていると私は考えます。

ソコル:

最後に大輔さんのご意見を聞いて、パネルディスカッションを終了したいと思います。

伊永:

先ほどレナートも指摘されましたが、この分野でのデータ共有、データプーリングの重要性を強調されたのではないかと思います。日本でもようやくデータ共有の検討が始まっています。今やデータ共有は推進されるべきですが、依然として共有という形でカルテルを推進する側面もありますし、データが悪用された時にどうすればいいのかという問題もあります。例えば、データ共有がカルテルのシグナルとして利用されたり、データの囲い込みがデータ共有を阻害したりする可能性もあります。いずれせよ、デジタル広告の分野で問題点もいくらかありますが、それも解決できることを希望します。

ソコル:

素晴らしいですね。皆さん、ご参加いただき、ありがとうございました。CPIを代表して、日本のデジタル広告についての意見・洞察を共有してくださった皆さんに感謝いたします。ありがとうございました。